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盛岡地方裁判所 昭和28年(行)1号 判決

原告 野田松之丞

被告 岩手県知事

一、主  文

本件訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は「被告が昭和四年九月三十日附岩手県告示第五百十九号をもつて、甲子川筋の左岸岩手県上閉伊郡甲子村字大松枯松沢合流点対岸、右岸同村同字枯松沢合流点、以下釜石湾河口に至る区域についてなした河川法準用区域認定処分の違法なることを確認する。被告が別紙目録記載の土地について昭和十七年三月十四日附岩手県指令土第四十六号をもつてなした河川切換改修工事施行の許可処分はこれを取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として、別紙目録記載の土地は肩書地に十数代居住して農を業とする原告の先祖伝来の所有農耕地であるところ、被告は右土地の附近を流れる自由河川たる甲子川筋の請求の趣旨第一項記載の区域について同項掲記の告示をもつて、該区域を河川法準用区域と認定する処分をなした。ところで河川区域の認定は事実河川たることを確認する行為であつて、この認定により該区域が河川の区域たる法律上の確定力を生じ、直に河川法第三条による私権消滅の効力を発生するのであるから、その認定処分をその認定区域内にある土地所有者その他の利害関係人に告知しなければならないわけである。そのため河川法は処分庁にその管理に属する河川の台帳の調製を命ずると共に附属法令たる河川台帳令によつて認定河川区域を河川台帳に記載しこれを縦覧に供する等の方法をもつて広く利害関係人等に告示せしめることになつている。このことは河川法準用区域の認定の場合も同じである。しかるに被告は前記河川法準用区域認定処分をなすに当り上述のような準用河川台帳の調整手続をとらなかつたから、該処分はこの点において違法であるところ、甲子川が右違法の処分により前記区域について河川法準用河川となつたため、原告は河川法の準用に基く被告の後記河川切換改修工事施行の許可処分により後述のとおり原告所有の前記土地の耕作権を失うに至つたのである。よつて右河川法準用区域認定処分の違法たることの確認を求めたい。未だ被告は訴外日本製鉄株式会社(以下日鉄と略称する)に対し別紙目録記載の土地を含むその附近の甲子川筋について請求の趣旨第二項掲記の指令をもつて河川切換改修工事の施行を許可する処分をなした。しかし右許可の処分には次のような違法がある。右日鉄は日本製鉄株式会社法(昭和八年法律第四十七号)により設立された資本金四億円の半官半民の公産業会社であるところ、昭和十七年頃右土地の附近に釜石製鉄所を設けて事業経営の拡大を企図したが、当時日鉄が右製鉄所の生産の隘路としていたところのものは、社員及び労務者の住宅敷地の不足であつた。そこで日鉄は甲子川筋附近の土地を収用整備してこれを労務者等の住宅敷地となしこの附近に一大住宅街を建設する目的をもつて、先ず被告に対し同年一月頃河川法準用河川たる甲子川筋について河川区域の切換改修工事施行の許可を申請した。ところが右切換改修工事はこれによつて、河川法準用河川たる甲子川の河川区域を変更することになるのであるから、それには右河川が河川法第二条第二項に掲げる場合に当らなければならないし、また右区域変更の職務権限ある被告自らが右河川切換の改修工事を企図すべきものであるにかかわらず、被告は同河川について右条項に掲げるような場合が認められないのに、ただ日鉄の前記計画を助成する意図においてのみ前記日鉄の申請を容れ、前記のような許可の処分をなし、自らなすべき工事を日鉄になさしめたのである。しかして日鉄は右許可後直に着工し、なお前記計画を強行するため同十八年十月右原告の土地を含む改修区域を国家総動員法第十三条に基いて収用したうえ、同二十年八月まで右工事を継続したが、終戦と同時にこれを中止し、日鉄が再建制備法に基いて第二会社たる富士製鉄株式会社を設立するに及んで残工事を被告に移管し被告においてこれを完成のうえ同二十六年九月右改修区域に通水したのである。以上の次第で被告のなした前記許可の処分は結局において名を河川法第二条第二項による河川区域の変更にかりた権限濫用の違法処分であり、この処分による右工事の結果原告所有の前記土地は河川敷地となり、ために原告は同土地の耕作権を失つてしまつたから、これが取消をも求めたく本訴に及ぶと陳述し、被告の主張に対し、被告は右許可の処分は河川法第十七条に基いたものであるというけれども、同法条は河川工作物の新築、改築もしくは除去という比較的軽微な工事に関する規定であつて、河川の切換改修工事の如き必然的に河川敷地の変更を伴うべき河川行政上重大な工事にはこれを適用すべきものではないから、もし同法条を準用したとするならこの点においても右許可の処分は違法であると述べた(立証省略)。

被告訴訟代理人は本案前の主張として、まず原告は先に求めた甲子川筋の河川切換改修工事施行の許可処分の取消に追加して同河川の河川法準用区域認定処分の違法確認を求めたが、後者は前者とその請求の基礎たる事実において全く別異のものであるから、かかる訴の追加的変更は許されないものとして、異議を留めると述べ、次に本案前の抗弁として、原告は昭和二十三年六月二十八日頃被告に対し、原告主張の土地の附近にある原告所有の三筆の土地につき農地買収計画よりこれを除外されたい旨の請願書(乙第一号証)を提出したが、この書面によれば原告がその当時過去において原告主張の各行政処分のあつたことを知つていて、右請願をなしたことが窺われる。また被告は原告主張の土地に関する別件(原告野田松之丞被告日本製鉄株式会社外一名間の東京地方裁判所昭和二十六年(ワ)第六、四一五号土地所有権移転無効確認等事件)につき原告の求により同二十七年五月十七日右土地をも含む甲子川筋の河川切換改修工事の関係事項にかかる回答書(甲第一号証)を提出交付したから、原告はこの日において原告主張の各行政処分のあつたことを知つたものである。従つて本件訴は昭和二十二年法律第七十五号第八条に規定する出訴期間を徒過して提起されたものであるから、不適法として却下さるべきであると述べ、本案について「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、原告主張の事実のうち、原告が農を業とする者であること、被告が原告主張の告示をもつて原告主張の甲子川筋の地域を河川法準用河川区域と認定したこと、その認定の処分をなすに当り、原告主張の準用河川台帳を作成しなかつたこと、被告が日鉄に対して原告主張の指令をもつて原告主張の土地を含む原告主張の甲子川筋につき河川切換改修工事施行の許可処分をなしたこと、日鉄及び釜石製鉄所の設立関係が原告主張のとおりであること、日鉄が右改修区域に当たる原告主張の土地を国家総動員法第十三条により収用したこと並びに右改修工事が原告主張のとおりの経過で施行され、完成、通水を見たことはいずれも認めるが、その余の事実は争う。ことに右河川切換改修工事施行許可の処分は昭和十七年一月頃日鉄から被告に対し河川法第十七条に基き甲子川筋の切換改修工事施行の許可申請があつたので、被告は同法条によりその当時の前記甲子川筋の平水路の乱流路を新流路に切換改修することを許す趣旨の前記許可の処分をなしたのであつて、日鉄に対しては河川の切換改修工事施行の許可をなしたに止まり、その敷地の使用を許可したのではない。敷地使用の関係は被告の与り知らないところであつて、さればこそ日鉄は前述のとおり国家総動員法第十三条によつて原告主張の土地を収用し、その後において右切換改修工事を施行したのである。その間になんら違法の廉はない。以上の次第で原告の主張は失当であると陳述した(立証省略)。

三、理  由

先ず被告の本案前の異議について考えるに、原告の本件訴変更前の請求は、河川法準用河川たる甲子川の原告主張の川筋について被告がなした河川切換改修工事施行の許可処分は河川法の規定をみだりに準用した違法のものであると主張してその取消を求めるものであり、後の請求は、同河川筋の原告主張の区域について被告がなした河川法準用河川区域認定の処分は河川法所定の手続に則らない違法のものであるとして、その違法確認を追加的に求めるものであるから、いずれも等しく原告主張の土地に影響ある甲子川筋についてなされた違法の行政処分を争うものであり且つ後の請求は前の請求の前提をなすものといわなければならない。それなら前後両請求は必しも請求の基礎において共通の点がないわけではないし、また右請求の変更は著しく訴訟手続を遅滞せしめるものでもないから、右異議はその理由がない。

次に被告の本案前の抗弁について按ずるに、被告が昭和四年九月三十日附岩手県告示第五百十九号をもつて自由河川たる甲子川筋の原告主張の区域について該区域を河川法準用区域と認定する処分をなしたこと及び被告が日鉄に対し別紙目録記載の土地について昭和十七年三月十四日附岩手県指令土第四十六号をもつて河川切換改修工事の施行を許可する処分をなしたことは当事者間に争がない。

ところで本件訴のうち右河川法準用区域認定の処分の違法確認の請求は違法な該行政処分により畢竟するところ権利を侵害されたとする原告がその違法であることの審査を求めるのであるから、結局右認定の処分の取消を求める趣旨であり、いわゆる抗告訴訟の性質を有するものとみるべきである。従つて右河川切換改修工事施行許可の処分の取消請求と共にいずれも出訴に当つては法定の出訴期間を遵守しなければならないところ、処分の日を基準とする本件訴の出訴期間については行政事件訴訟特例法の附則第四項によれば昭和二十二年法律第七十五号第八条但書の適用があり、処分の日から三年であるべきものである。そこで右各行政処分の処分の日すなわち効力発生の時期いかんというに、いずれも当該処分の内容が外部に表示された時と解すべきところ、これを右河川法準用区域認定の処分についてみると、本件にはこの時期を明確に掴み得る資料はないけれども、後述のとおり昭和十七年には甲子川が右認定の処分によつて河川法準用河川になつていることを前提とし同河川につき河川切換改修工事施行の許可の処分がなされ、以後該処分に基きその工事が施行されたのであるから、右認定の処分は遅くとも右許可の処分のあつた頃までにはその内容が外部に明らかにされていたものというべきであるし、また右許可の処分について見ると日鉄に対し該処分の許可書が交付された日であらねばならないところ、本件においてはその交付の時が明瞭にされてはおらないが、前示指令をもつて被告が右河川切換改修工事施行の許可の処分をなした直後日鉄が該工事に着手し、昭和二十年八月の終戦時までこれを続行し、終戦後被告が残工事を引き継いでこれを完成のうえ同二十六年九月改修区域に通水したことは当事者間に争ないところであるから、右許可書の交付は特段の事由のない限り右工事着手の頃までになされたものと解すべきである。それなら右各行政処分の処分の日はいずれにしても昭和十八年以後ではあり得ないのであるから、本件訴は処分の日より三年の出訴期間経過後の提起にかかり、不適法のものとして却下を免れないものといわなければならない。

よつて他の争点についての判断を省略し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条、第九十五条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 村上武 上野正秋 佐藤幸太郎)

(別紙目録省略)

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